スズ(小二)の家に、弟が生まれた。家じゅうの時間が、まるごと赤ん坊のもので回りはじめて三十日になる。スズは、いい子である。泣かない。ぐずらない。「お姉ちゃんだもんね」と言われれば「うん」と笑う。夜中に目が覚めても、母を起こさないよう、こっそりトイレに行って戻る。
それを、じいちゃんのカンスケだけが見ていた。カンスケの持論では、我慢は、褒めると増える。だから褒めなかった。代わりに、共犯に誘った。「スズ。じいちゃんと、悪いことをしよう」。悪いこと——夕方の堤防の階段で、こっそり食べるカップのプリン。
遠回りして見に行く貨物列車。母には内緒の、五円玉の宝物。週に二回、二人だけの「悪いこと」の時間。スズは共犯の掟をかたく守り、家に帰れば今日もいい子をやる。カンスケの狙いはひとつだけだ。スズの我慢が「我慢」のかたちのまま固まってしまう前に、逃がし穴をあけておくこと。
さて、弟のお宮参りが近づいてきた。親戚が全員集まり、誰もが赤ん坊だけを見る日だ。スズが朝から晩まで「お姉ちゃん」をやらされるその日のために、カンスケは、いちばん大きな悪いことを計画している。
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