ゾグは、宇宙人である。地球には「下見」で来た。母星の命令はこうだった。「その星が攻め落とす価値のある星か、調べて報告せよ」。それが、三百年前のことである。報告書は、まだ出していない。書けないのではない。書きたくないのだ。下見のつもりが、ゾグは地球に住んでしまった。
豆腐というものがうまい。夕立のあとの濡れた道を、足(のようなもの)でぺたぺた歩くのが好きだ。人間は小さくて、うるさくて、すぐ泣いて、すぐ笑う。三百年見ていて、飽きたことがない。ところが先日、母星から通信が来た。「督促。三十日以内に報告書を提出せよ。
提出なき場合、調査団を派遣する」。調査団はまずい。あいつらは風情というものを解さない。ゾグは三百年ぶりに筆(のようなもの)を執った。書くべきことは決まっている。「この星に、攻める価値なし」。嘘である。価値ならある。ありすぎるほどある。
だからこそ、そう書くのだ。問題は、母星をだまし切れるだけの「つまらない地球」を、三十日で説得力たっぷりに書き上げること。地球がいちばん好きな者が、地球のいちばん悪口を書く。ゾグの筆は、今夜も進まない。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。