第1話

仏間の世界線昨日の読了 0約1分

リエンはベトナムから嫁いで二年になる。日本語は義母のセツさんより早口なくらいで、ぬか床の世話も、町内の回覧板も任されている。ただひとつ、この家で分からない場所がある。仏間だ。セツさんは毎朝、仏間の遺影に手を合わせ、お鈴を鳴らし、昨日の出来事を報告する。

遺影の人はリエンの義父——夫の父で、リエンが嫁ぐ前に亡くなった人だ。会ったことがない。声も知らない。なのにこの家では、その人が今も家族の真ん中にいる。炊きたてのごはんは最初に仏間へ供えられ、いい知らせも最初に仏間へ報告される。

正直、少し怖かった。さて、三十日後は義父の七回忌で、身内が集まる。セツさんは張り切って、そして少し寂しそうに支度をしている。リエンは決めた。今年は支度を全部習う。義父の好物(セツさんいわく、栗きんとんと、下手の横好きの将棋)を聞き、若い頃のしくじり話を聞き、遺影の人を「知っている人」にしてから、法事の日を迎える。

お客の前で恥をかかないためではない。この家の家族に、ちゃんとなるためだ。法事の朝、リエンは仏間で、習ったばかりのお鈴を鳴らし、ベトナム語と日本語で初めての挨拶をするつもりでいる。「はじめまして、お義父さん。あなたの息子と、結婚しました」。

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