石匠アギトは、神社に納める狛犬の阿形を彫り上げて、死んだ。相方の吽形は、内弟子のウンが彫ることになった。師の阿はすでに境内の台座に据えられていて、毎日、まだ居ない相方に向かって口を開けている。ウンは知っている。自分の鑿はまだ師に遠い。
阿吽は一対で一つだから、釣り合わない吽を隣に置けば、師の阿まで安物に見える。宮司は「急がなくていい」と言うが、台座の片方が空いたままの正月を、二度は越せない。ウンは師の阿を毎朝写生する。たてがみの巻きの数、爪の食い込み、笑っているようにも吠えているようにも見える口元。
写せば写すほど分かるのは、師の阿が「何か」を待っている顔をしていることだ。相方を。返事を。阿は問いで、吽は答えだと、師は酒の席で一度だけ言った。問いはもう永遠に彫り直せない。ウンが彫るのは、師への最後の返事だ。
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