二国の国境線が建物のど真ん中を貫く宿屋「まんなか亭」。台所は東国、食堂は西国。酒の税は東が安く、パンの税は西が安い。閉店刻限は東が一刻早いので、夜が更けると客は杯を持ってテーブルごと西側へ引っ越す。女将のマタギはこの家で生まれた——寝台の真上を国境が通っていたため、頭と足でどちらの生まれか決められず、両国の戸籍に「保留」と書かれたままの人生を送ってきた。
東の税関吏ゼクトと西の税関吏ポルトは、毎晩それぞれの側のカウンターで飲んでいく(職務上、隣同士に座れない。話は女将が中継する)。そして三十日後、百年ぶりの国境確定委員会が来る。あいまいな土地をすべてどちらかの国へ割り振る委員会だ。
この家がどちらかに割られれば、東側の部屋から動けない祖母か、西側の常連の半分が「外国」になる。女将の願いは小さい。この家の食卓で、両側の客が同じ鍋をつつく夜を、割り振りのあとも続けること。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。