人口二百十人の島の分校に、生徒はミサキ一人だけになった。中一。先生はヨモギ先生一人、授業はいつも一対一だ。島の現実は明快で、ミサキが卒業する時に次の生徒がいなければ、明治から続いた分校は歴史を閉じる。そこへ役場から知らせが来た。
「島留学」の制度に、一組だけ応募があったのだ。都会の一家で、小五の女の子ワカバがいる。三十日後、一家が日帰りの見学に来る。つまり、島の未来はその一日で決まる。島は静かに沸騰した。港の男たちは船を磨き、民宿は布団を干し、役場は歓迎の垂れ幕を刷ろうとして——ミサキが止めた。
「大人が売り込むほど、子どもは引くから」。作戦の指揮は、当の一人きりの生徒がとる。ワカバに良い顔は作らない。ただ、自分がこの島で本当に面白いと思っている場所と時間——夜光虫の入り江、台風あけの浜、灯台の裏の昼寝場所——を、その一日に自然に置いていく。
うそのない口説き方だけが、たぶん効く。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。