高三のリツは、小四から中二まで、町の子ども食堂「ひだまり」に通って育った側の人間だ。母が夜勤の日は、ヤエさんの塩むすびが夕飯だった。そのヤエさんが倒れた。命に別状はないが、入院ひと月。「ひだまり」は週二回、五十食。休めば、あの頃の自分と同じ子たちが、今夜の行き場をなくす。
リツは病室で宣言した。「ひと月、俺が回す」。ヤエさんは笑って、それから泣いて、台所の鍵を渡した。回してみて分かった。ここは飯を作るだけの場所ではなかった。寄付の米の交渉、余り野菜をくれる八百屋への挨拶、献立とアレルギーの聞き取り、宿題を見る係、そして毎週来るフウタ(小三)が最近口を利かなくなった理由。
五十食の向こうに、五十の事情がある。ヤエさんが退院するまで三十日。リツの目標は「守り切る」だけではない。退院したヤエさんに、ひとつだけ新しいものを見せたい——自分が考えた新メニューが、子どもたちの「いつもの」になっている食堂を。
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