この世界は、大きなぜんまい仕掛けで回っている。潮が満ち、風が吹き、季節がめぐるのは、世界の中心に立つ「巻き軸」が巻かれているからだ。ぜんまいは百年でゆるむ。ゆるむと、まず風が弱り、次に潮が鈍り、最後に季節が止まる。だから百年に一度、各地の町から選ばれた「巻き手」が中心へ集まり、力を合わせて軸を巻き直す。
今年が、その百年目だ。コマキ(十八)は、町の力くらべと長歩きの試しを勝ち抜いて、町でただ一人の巻き手に選ばれた。巻き軸までは歩いて三十日。巻きの日は動かせない——軸の受け口が開くのは百年に一度、その一日だけで、遅れた者の百年は流れる。
旅の景色は、少しずつおかしい。風のない峠では旗が垂れたまま乾き、水の鈍った谷では滝が糸のように細い。道々で他の町の巻き手たちと合流する。浜の町の大男、峠の町の兄弟、はるか北から来た口数の少ない娘。全員が同じ方角へ歩いている、それだけで話は早い。
荷を分け合い、順番に眠り、ゆるんでいく世界を横目に、中心へ。着いたら、数百人でいっせいに巻く。世界がまた百年ぶん、動き出す音を聞くために。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。