ワシは、シーラカンスである。歳は聞くな。族としては四億年になる。四億年、何をしていたかというと、ほぼ何も変えていない。ヒレを足に作り替えるのが大流行したときも、乗らなかった。こぞって陸へ上がっていったときも、岩陰から見送った。
翼だ、恐竜だ、と派手にやっていた連中もいたが、ワシは思っていた。「ああいうのは、長くない」。実際、長くなかった。流行に乗らない。これがワシの家訓である。深海は暗いが、静かで、家賃もいらん。エサは向こうから降ってくる。変える理由が、どこにもない。
ところが近ごろ、困ったことがある。まるい光の目玉(人間の潜り機械らしい)が、ちょくちょく岩陰を覗きに来るのだ。聞けば人間ども、ワシらを「生きた化石」と呼んで騒いでおるという。化石とは失礼な。こっちは現役である。で、あの目玉、三十日後にまた来るらしい。
仲間うちで話し合いになった。「いつも通り隠れる」が多数派。だがワシは、四億年で初めて、妙な気を起こしている。一度くらい、ちゃんと映ってやろうか。変わらないままで四億年やってきた者が、どれだけ立派か、見せてやろうか。いや、待て。
これは「流行に乗る」にあたるか? ワシは目下、四億年ぶんの家訓と相談している。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。