イラストレーターのリサ(二十六)は、初めての大きな仕事——児童書のさし絵、まるまる全ページ——を受けて、締切の神様と月に何度も会う仲になった。神様は仕事はしない。逃げようとすると机の端に立ちふさがり、うたた寝をすると耳元で咳払いをし、真夜中に心が折れかけると、黙って湯呑みの茶を一口くれる。
なぜか、折れない味がする。神様にはもうひとつ、大事な掟がある。「締切を延ばしてやれるのは、一人の人生に、一度きり」。神様は言う。「使いどころを間違えるなよ。人生には、本物の『間に合わない』が一度は来る。それがいつかは、わしにも分からん」。
納品は三十日後。順調だった。だが中盤、リサの目に、描き上げた絵が全部「うまいだけ」に見え始めた。子どもの頃の自分なら、この絵をめくって、わくわくしただろうか。全部描き直したい。描き直せば、間に合わない。一度きりの延長を、ここで使うのか。
それとも、これは「本物の間に合わない」ではないのか。神様は湯呑みを持ったまま、何も言わずにリサを見ている。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。