ある日曜の朝、ミノル(三十)の玄関に、十二歳の男の子が立っていた。見覚えがある。当たり前だ。十二歳の自分なのだから。正確には——本人がそう名乗ったのだが——小学校の卒業文集に書いた「宇宙飛行士になる」という夢が、あの頃のミノルの姿を借りて、たずねて来たのだという。
どうしてそんなことが起きたのかは、分からない。夢も教えてくれなかった。玄関で呆然と立つミノルに、本人はこともなげに言った。「おれ、三十日で帰るから。それまでに決めて。もう一度やるか、ちゃんとお別れするか。どっちでもいい。決めないのだけは、なしな」。
なぜ来たのかの説明は、なかった。誰にも相談できない。言えば心配されるだけだ。仕方なくミノルは会社に「親戚の子を預かっている」と話し、十二歳の自分との同居を始めた。夢は遠慮なく暮らした。部屋の星の見えなさに文句を言い、残業帰りのミノルに今日の月齢を報告し、休みの日は屋上へ引っ張っていく。
「ねえ、三十歳って、もう遅い?」と夢は聞く。ミノルは答えられない。宇宙飛行士には、たぶんもう、なれない。だがこの三十日で思い出したこともある。自分はそもそも、なぜ宇宙だったのか。ロケットではなく、星図と、冬の屋上と、あの静けさが好きだった。
三十日目の朝、玄関で夢に何と言うか。「さよなら」でも「もう一度」でもない第三の答えを、ミノルは探し始めている。
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