中二のトウマの母サチが、夕飯の席で突然宣言した。「お母さん、免許取るから」。家族は騒然とした。父は「今さら?」と言い、トウマは「無理だよ」と笑ってしまった。母は理由を言わない。「取りたくなったの」とだけ言って、翌週から教習所に通い始めた。
母は、劣等生だった。曲がりくねったコースで脱輪し、発進の課題で後ろに下がり、ハンコをもらえない日は無言でスーパーの袋を提げて帰ってくる。それでも一日も休まない。トウマは「無理だよ」と笑った手前、応援を口にできない。できないので、夜の食卓で学科の問題をわざと声に出して読む。
「たまたま目に入った」という顔で。母は「あら、それ明日出るかも」という顔で聞いている。ある夜、トウマは母の鞄から進路資料のコピーが出てきたのを見てしまった。トウマの第一志望——電車では通えず、家族の送り迎えがなければ通えない、あの高校の資料だった。
トウマはその高校を、口には出さず、成績表とにらめっこしながらそっと諦めかけていたのに。三者面談は三十日後。母はその日までに免許を取るつもりでいる。面談の席で、こう言うつもりでいる。「送り迎えはできます。行きたい学校を書きなさい」。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。