トモキ(中三)の家の、茶の間の引き出しには、今年の延長券がまだ三枚ある。三枚残っているのは、余裕の証拠ではない。逆だ。父は残業続き、母はパートのかけもち、姉のミサトは受験の追い込み、トモキは放課後の練習。全員が同じ場所にいる一時間が、今年はまだ一度も作れていないのだ。
延長券の期限は三十日後。期限が切れた券は、ただの紙になる。「別にいいじゃん、紙で」と姉は言う。「よくない」とトモキは思う。小さい頃、延長の一時間はいつも家族の花形だった。茶の間で、時計が止まったみたいな一時間、トランプをして、笑いすぎて腹が痛くなった。
あの一時間の味を、トモキはまだ覚えている。かくして中三の弟の、静かな作戦が始まる。父の残業のない曜日を母経由で探り、姉の塾の予定を盗み見て、全員の空白が重なる一時間を探す。見つからなければ、作る。姉の夜食を三十日つくって恩を売る。
父の肩を揉んで探りを入れる。家族がそろう一時間は、偶然には来ない。誰かが、たくらまなければ。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。