鑑定人のガンサクは、この道の目利きとして知られる。誰も知らないことがひとつある。若い頃、彼は描く側だった。世に流した贋作は七枚。六枚は年月の中で自分の手で回収し、燃やした。最後の一枚——二十四歳の冬に描いた「雪の運河」——だけが、行方知れずのまま三十年経った。
先月、その一枚が市場に出た。持ち主は旧家の当主シラカベ。そして依頼が来た。「これが真作かどうか、貴方の目で鑑定してほしい」。描いた本人に、真贋を訊いている。偽物と言えば絵は死に、旧家の相続が壊れる。本物と言えば、彼の目は今度こそ本物の嘘つきになる。
ガンサクは鑑定を三十日待ってもらった。その間に、彼はもう一度だけ筆を執る決心をする——本物の「雪の運河」を、いま、描くのだ。二十四歳の自分より、うまく。
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