都は、百年ですこし地面に沈む。だからこの国では百年に一度、国中から民が集まり、都を丸ごと持ち上げて据え直す。「大持ち上げ」——十万人がいっせいに力を入れる、世界最大の一日仕事だ。成否は力の総量ではなく、十万人の力がただ一つの瞬間にそろうかどうかで決まる。
そしてその瞬間を作るのが、たった一人の「音頭取り」だ。今年の音頭取りに選ばれたのは、セイノという体の小さな若者だった。声の大きさで選ばれたのではない。村の餅つきで、つき手と返し手が事故なくそろう「間」を、誰の目にも留まらぬまま作っていたのを、先代に見抜かれた。
「でかい声はいらん。十万人が思わずそろってしまう間を、おまえは持っとる」。大持ち上げは三十日後。セイノは毎日、都を歩いて回る。石工は打ってから息を継ぎ、粉屋は挽きながら息を継ぐ。荷運びの息は長く、赤ん坊を背負った母の息は浅くて速い。
十万人の息づかいはばらばらだ。ばらばらのまま、そろう瞬間がひとつだけある——それを見つけるのが音頭取りの仕事だと、セイノは歩きながら学んでいく。当日、都の家々の土台に十万本の担ぎ棒が差し込まれ、国中の手がそれを握る。セイノの一声で、都が浮く。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。