第1話

途中の国の世界線昨日の読了 0約1分

この国では、何もかもが「あと少し」で止めてある。城の塀は最後の一間が積まれず、国歌は最後の一節が作られず、王の肖像は片目が塗られていない。言い伝えがあるからだ——「完成したものは、その日から崩れ始める」。完成は死の始まり、途中こそが永遠。

三百年、この国は九分九厘で生きてきた。その国の真ん中に、祝いの鐘楼がある。三百年前から「あと一段」で止めてある鐘楼だ。今年、その鐘楼が傾き始めた。煉瓦積みの若い娘ハツが調べ、誰も言いたがらないことを言った。「あと一段を積まないから、傾くんです。

上が開いたままだと、雨が芯を腐らせる。完成させれば、締まって直る」。国は割れた。完成は禁忌だ。だが放っておけば倒れる。長老たちは「途中のまま補強を」と言い、ハツは「補強はまた途中を増やすだけ」と言う。倒れるまで、ハツの見立てでおよそ三十日。

ハツは最後の一段ぶんの煉瓦を、ひとりで焼き始めた。積ませてもらえるかは、まだ分からない。積んだ日に言い伝えが本当だったら、崩れるのは鐘楼だけではない——この国の三百年ぶんの「途中」の言い訳、ぜんぶだ。

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