第1話

ヒッチハイクの世界線昨日の読了 0約1分

大学三年のジュンは、就職活動の面接で「あなたの言葉で話してください」と言われて、何も出てこなかった。自分の言葉とは何だ。考えた末、夏休みの三十日で、実家まで千二百キロをヒッチハイクで帰ると決めた。所持金は薄く、頼れるのは画用紙とマジックだけ。

「西へ」。最初の一台を待つ二時間で、ジュンは早くも学んだ。人は、暇だから乗せてくれるのではない。トラックの運転手は仮眠の前に誰かと話したくて、営業車の男は昨日決まった転勤を誰かに言いたくて、子連れの母は後部座席の息子に「人助け」を見せたくて、停まってくれる。

乗せてもらう礼は、金では払えない。だからジュンは聞き役になる。百キロぶんの人生の話を聞いて、サービスエリアで降りて、また紙を掲げる。面接で言う「自分の言葉」はまだ見つからない。ただ、胸の内側に、他人の言葉が百人ぶん、たまっていく。

実家の玄関まであと何台。母には「電車で帰る」と嘘をついてある。

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