大学三年のジュンは、就職活動の面接で「あなたの言葉で話してください」と言われて、何も出てこなかった。自分の言葉とは何だ。考えた末、夏休みの三十日で、実家まで千二百キロをヒッチハイクで帰ると決めた。所持金は薄く、頼れるのは画用紙とマジックだけ。
「西へ」。最初の一台を待つ二時間で、ジュンは早くも学んだ。人は、暇だから乗せてくれるのではない。トラックの運転手は仮眠の前に誰かと話したくて、営業車の男は昨日決まった転勤を誰かに言いたくて、子連れの母は後部座席の息子に「人助け」を見せたくて、停まってくれる。
乗せてもらう礼は、金では払えない。だからジュンは聞き役になる。百キロぶんの人生の話を聞いて、サービスエリアで降りて、また紙を掲げる。面接で言う「自分の言葉」はまだ見つからない。ただ、胸の内側に、他人の言葉が百人ぶん、たまっていく。
実家の玄関まであと何台。母には「電車で帰る」と嘘をついてある。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。