冷やすという技のないこの世界で、夏の氷はぜんぶ、冬の山から人が運ぶ。「氷差し」——山の氷倉から都まで、溶けていく荷を背負って走る誇り高い稼業だ。氷は走っている間も減り続ける。だから氷差しの腕は、速さと、道選びと、荷のくるみ方に出る。
都に着いたとき氷がどれだけ残っているか、それがそのまま氷差しの名になる。「七割のギン」「六割半のシモ」——伝説の運び手は皆、残した割合で呼ばれる。新人のヒサメは、今年初めて夏の大輸送を任された。都の「氷開きの日」に間に合わせる、いちばん大きな荷だ。
山を下り、日陰の谷を選び、川風の橋で荷を休ませ、昼は洞で眠って夜を走る。道々には氷差しをねぎらう習わしがあり、村々は冷たい水と噂話をくれる。「北の山道は日当たりが変わった」「南回りは崖が崩れた」。氷と噂を天秤にかけ、道を組み直しながら、ヒサメは走る。
都まで三十日。背中の氷は、いま九割五分。着いたとき、自分が何割の名で呼ばれるのか。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。