紙芝居屋のゲンタは、夕方の空き地に荷車を停めて拍子木を打つ。飴が売れなければ飯が食えないから、規則はひとつ——飴を買った子が前、買えない子は木の陰。三十年やって、ゲンタは知ってしまった。木の陰の子ほど、いい顔で聴くのだ。身を乗り出して、口を開けて、拍子木のたびに肩が跳ねる。
銭を取るから明日も来られる。銭のない子ほど、客にしたい。この矛盾を荷台に積んで、ゲンタは今日も三つの空き地を回る。クヌギの木の陰にいつもいる子は、名前を知らない。訊けば飴を買えない事情まで訊くことになる気がして、三月、訊けずにいる。
折しも町にはテレビが来はじめた。茶の間に子どもが吸い込まれ、空き地は年々静かになる。飴問屋のアメヨコは「そろそろ畳んだら」と言う。ゲンタの願いは店を畳む前にひとつだけ——あの木の陰の子を、一度だけ最前列に座らせたい。施しに見えない形で。
ほかの子の五円を、嘘にしない形で。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。