小六のタイシと小三の妹ノンは、母の日に向けて「家一周からくり装置」を作っている。玄関でビー玉が転がり出し、廊下の定規を渡り、階段で竹ひごのレールを下り、台所の鍋のふたを鳴らし、居間を一周して、最後にクラッカーの紐を引く。クラッカーの中身は紙ふぶきと「おかあさん、いつもありがとう」の旗だ。
問題はただひとつ、成功率である。ビー玉は定規の三センチ手前で止まり、ドミノは猫のしっぽで全滅し、鍋のふたは鳴りすぎて母に「何の音」と怪しまれる。試運転は夜、母が風呂に入っている二十分だけ。設計図は兄、飾りつけは妹。失敗は数えない。
落ち込むからだ。代わりに二人は、うまくいった区間に印をつける。「ここまでは、できてる」。装置は少しずつ長くなる。母の日は三十日後。当日の朝、母が新聞を取りに玄関の扉を開けた瞬間が、スタートの合図になる予定だ。一発勝負。リハーサルで成功したことは、まだ一度もない。
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