前線の勇者アルトは、愚痴が多い。「聖剣、重い」「宿の飯、硬い」「みんな俺に期待しすぎ」。言える相手がいないので、拾った「どこかへ届く手紙箱」に書いて放り込んでいる。返事が来る。差出人は「M」。字が几帳面で、説教くさくて、的確だ。
「剣が重いのではなく、君の握りが浅い」「期待は餌だ。食いすぎるな」。Mの手紙だけが、アルトの支えになっていく。一方そのころ、魔王城。魔王ミアは執務の合間に手紙箱を開け、眉間を揉んでいた。「また来た……この愚痴勇者、字は汚いが、なぜか憎めない」。
二人は知らない。読者だけが知っている。決戦は三十日後。アルトは決戦前夜、Mに最後の手紙を書くつもりでいる——「戦いが終わったら、一度会ってくれませんか」。
聞いたか、M。おれたち、百人もいるらしいぞ。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。