第1話

文通の世界線昨日の読了 0約1分

前線の勇者アルトは、愚痴が多い。「聖剣、重い」「宿の飯、硬い」「みんな俺に期待しすぎ」。言える相手がいないので、拾った「どこかへ届く手紙箱」に書いて放り込んでいる。返事が来る。差出人は「M」。字が几帳面で、説教くさくて、的確だ。

「剣が重いのではなく、君の握りが浅い」「期待は餌だ。食いすぎるな」。Mの手紙だけが、アルトの支えになっていく。一方そのころ、魔王城。魔王ミアは執務の合間に手紙箱を開け、眉間を揉んでいた。「また来た……この愚痴勇者、字は汚いが、なぜか憎めない」。

二人は知らない。読者だけが知っている。決戦は三十日後。アルトは決戦前夜、Mに最後の手紙を書くつもりでいる——「戦いが終わったら、一度会ってくれませんか」。

転生管理より重大な不具合が見つかりました。あなたは、ある一人の人物の転生者です。同じ人物の転生が、あなたを含めて百件確認されています。原因究明のため、読了の少ない世界線から順に、凍結を行います。

聞いたか、M。おれたち、百人もいるらしいぞ。

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