夜のあいだに、世界の町の並びは入れ替わる。朝起きると「隣」が変わっている。今日の隣は海辺の町、明日の隣は雪の町。人々はそれに慣れて暮らしている——商人は毎朝あたらしい隣と商いをし、子どもはあたらしい隣を探検し、町の入り口の高札が「本日の隣」を知らせる。
同じ町どうしが隣り合うのは、並びの計算士いわく、およそ千日に一度。ユラ(十六)には、三年前にひと月だけ隣だった町がある。そこに、同い年のリトがいる。ふたりは隣だったひと月、ふたつの町の丘で「同時にのろしを上げる実験」に熱中して、成功する前に夜が並びを変えた。
別れ際の約束はひとつ。「今度隣になったら、続きをしよう」。手紙は届かない。会う手段は、また隣になるのを待つだけだ。先週、並びの計算士が空を見上げて言った。「そろそろ来るよ。三十日のうちに、一度」。それからユラは毎朝いちばんに境の丘へ登り、今日の隣を確かめる。
のろしの薪はもう積んである。向こうの丘にも積まれているかは、隣になった朝にしか分からない。そして隣は、一日で入れ替わるかもしれない。来たその日が、実験の日だ。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。