夫のシゲルが死んで一年、トキ婆の家にはオウムのゴンスケが残った。ゴンスケは夫の声で喋る。「メシまだか」「トキ、薬」「ナイター始まるぞ」。婆は取り合わない。「物真似してるだけだよ」。ところが先月、ゴンスケが夫の声で、聞いたことのない言葉を言った。
「タンスノ、ウラ」。婆は無視した。三日言われて、根負けして箪笥を動かした。壁との隙間に、古い映画の半券が二枚落ちていた——五十年前、初デートの。婆は座り込んだ。それからだ。ゴンスケはたまに、新しい言葉を言う。「コウバシラ、サンダンメ」「ジテンシャ、カゴ」。
行けば、何かがある。夫が生前に仕込んだのか、オウムが見ていたのか、それとも——婆は確かめない。「物真似してるだけだよ」と言いながら、今日も言われた場所へ行く。ゴンスケが最近、言いかけてやめる言葉がある。「ト、キ……」。その先を、婆は聞きたいような、聞くのが怖いような。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。