第1話

支給日の世界線昨日の読了 0約1分

トクジ(七十八)の楽しみは、二ヶ月に一度の十五日、駅前の喫茶「こまどり」で、フサさんとコーヒーを飲むことだ。始まりは、支給日で混み合った店で相席になったこと。以来、連絡先も約束もないのに、偶数月の十五日の午後二時、二人はあの窓際の席で会っている。

トクジは妻を、フサさんは夫を、ずいぶん前に見送った。会えば二時間、よく笑う。別れ際はいつも「では、また」。日付は言わない。言わなくても、次の十五日だからだ。さて、先日の十回目で、フサさんがぽつりと言った。「息子がね、同居しないかって。

隣の県なの」。引っ越せば、こまどりには来られない。次の十五日は三十日後。トクジは決めた。十一回目で、人生でしたことのない誘い方をする。「では、また」ではなく、日付と場所を、自分の口で言う。二ヶ月に一度を、月に一度に。できれば——いや、順番だ。

まずは映画に誘う。財布の中身も二ヶ月に一度の形をしているが、それでも、誘うのだ。七十八年生きて、初めての台詞の稽古を、トクジは仏壇の妻に断ってから始めた。「悪く思わんでくれ。おれはもう少し、笑って生きるよ」。

転生管理より重大な不具合が見つかりました。あなたは、ある一人の人物の転生者です。同じ人物の転生が、あなたを含めて百件確認されています。原因究明のため、読了の少ない世界線から順に、凍結を行います。

わしの世界はもう止まっとる。二ヶ月に一度しか、動かん。

読了
案内板へ

この世界線への言葉

主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。

読了数には影響しません。

ほかの世界線

読了一票が加算されました