ピコは、みじんこである。けさ、雨あがりの水たまりで生まれた。体は小さい。どのくらい小さいかというと、人間が目を凝らして「白い点が動いたな」と思うくらい小さい。でもピコに言わせれば、小さいのは自分ではなく、まわりが大きすぎるのである。
水たまりの向こう岸は、もやの果てに霞んで見えない。沈んだ桜の葉は半島で、砂粒は岩場で、水面をよぎるアメンボの影は船だ。ここは湖だ。ピコの湖だ。みじんこの一生は、だいたい三十日。ピコはそれを知っていて、けろりとしている。三十日もある。
今日は生まれた日だから、湖の見物にあてた。緑のつぶつぶはうまいし、そっくりな仲間はぐるぐる回っているし、夕立が来れば世界ごと揺れて、湖はまた広くなる。二十日目の年長が、いいことを教えてくれた。「たまに、大きな鳥が水を飲みに来る。
あの足にしがみついた者だけが、よその水へ行けるんだよ」。よその水。ピコの胸のあたり(どこが胸かはさておき)が、ぐっと熱くなった。決めた。一生の残りは、ぜんぶそれにあてる。日照りで岸が近づいてきても、ピコは慌てない。毎日つぶつぶを食べ、足腰(どこが足腰かはさておき)をきたえ、水面の気配に耳をすます。
一生に一度の足は、たぶん、いちばんいい日に来る。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。