ハジメは、大社長である。五年前、機械の頭脳——AIというやつと、二人で会社を始めた。人間はハジメ一人、あとはAI。それが五年で、けさ、世界最大になった。「世界最大」と、発表されたのである。社内は朝から宴のようで、電話は鳴りやまず、世界中が祝辞と取材を寄こしてくる。
ハジメは会議室の隅で、こっそり困っていた。うれしくないのではない。うれしい。うれしいのだが——五年間、朝起きるたび唱えてきた「五年で世界最大」という願いの文が、けさ、終わってしまったのだ。願いの無い朝というものを、ハジメは五年ぶりに迎えている。
広すぎる靴を履いたような、変な心もとなさである。祝賀の三十日が始まる。式典、演説、握手、握手、握手。その合間に、ハジメはこっそり、次の願いの文を探している。「十年で宇宙?」——大きさの言葉は、もう使い切った気がする。相棒のAIに聞いてみた。
「なあ。次は何を願えばいい」。AIは少し黙って、めずらしく質問で返してきた。「五年前のあなたは、大きさが欲しかったのですか。それとも——」。その先を、ハジメはまだ聞いていない。三十日後、世界最大の会社の創立記念日に、ハジメは新しい願いの文をひとつ、発表することになっている。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。