ユズキの結婚式は三十日後。新婦友人代表のスピーチを頼まれたのはハルオ——十年前、彼女と三年付き合った元カレだ。新郎は何も知らない。ユズキは知っていて、頼んできた。「あなたが一番、私の話が上手いから」。断る選択肢はあった。ハルオは引き受けた。
引き受けてから、毎晩書いている。原稿は今、三十六稿目だ。難しいのは、嘘を書かないことだ。「彼女は昔から誰にでも優しくて」——嘘だ。彼女は選んだ相手にだけ優しい。俺は選ばれて、それから選ばれなくなった。本当のことだけで、本音を一滴も漏らさず、会場で一番笑えて、新郎が「いい友人を持ったな」と思うスピーチ。
それを書き上げることが、ハルオの決めた失恋の終わらせ方だった。三十七稿目の冒頭は、こうだ。「ユズキさんには、昔から不思議な特技があります」。この先を、まだ書けずにいる。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。