人口八千人の港町の消防団第三分団、団員七名。若手のゴウキ(二十四歳・筋トレが趣味)が入団して六年、出動は一度もない。火事が、起きないのだ。訓練は月二回。ポンプ車の磨き上げ、放水演習、年末の夜回り。「六年間なにしてたの」と同級生に笑われる。
腹は立つが、言い返せない——出動を願うことは、火事を願うことだからだ。俺たちの仕事は、無駄であるほど成功している。この理屈を、ゴウキは六年かけて自分に飲み込ませてきた。ところが先月、町役場から通知が来た。「出動実績を踏まえ、第三分団は三十日後の防災会議をもって統廃合を検討」。
無駄だから、削る。ゴウキは分団長の茶畑のじいさんと、団員七人で作戦会議を開いた。議題「出動ゼロの俺たちの六年に、値段をつける方法」。夜回りの声で救われた独居老人は? 演習を見て消防士を志した中学生は? 七人は、六年分の「何も起きなかった夜」の記録を集め始める。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。