高い峰にぐるりと囲まれたこの谷底の村には、太陽が年に三十日しか届かない。峰の切れ目から日が差し込む「日の季節」——村はその三十日に、一年分の日向を暮らす。洗い物もみそ玉も干すのは全部この季節、日向ぼっこは家族総出、日の当たる石の上は長幼の順で座る決まりだ。
ところが今年、春の山崩れで峰の切れ目に大岩が挟まり、日の道がふさがった。このままだと、今年の村に日の季節が来ない。立ち上がったのはトビ、村一番の岩場歩きの十七歳だ。村の年寄りたちは「岩は神の荷物、触れるな」と言う。トビは言い返す。
「去年までの日の道だって、誰かの先祖が石を割って通した道だって、爺ちゃんが言ってた」。日の季節の初日まで、あと三十日。トビは仲間を集め、峰に張りつき、大岩の目を読み、楔を打ち、少しずつ岩を転がす。谷底からは毎日、村中が首を上げて見ている。
初日の朝、峰の切れ目から最初のひとすじが谷に落ちたら、その光の下は、今年も村でいちばんいい場所だ。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。