二十年前の県予選、アンカー手前の九区で、タスキオは間に合わなかった。目の前で繰り上げのピストルが鳴り、仲間の襷は路上で終わった。以来、母校の陸上部は弱いままだ。タスキオは今年、その母校の監督になった。部員は七人、うち二人は幽霊部員、エースのハヤテは「襷とか、古くないすか」と言う。
予選会は三十日後。タスキオは自分があの九区の男だったことを、部員に言っていない。言えば「繋げなかった人の言葉」になるからだ。彼は知っている。襷は精神論じゃない。区間配置と、練習計画と、当日の風の読みだ。二十年、素人のふりをして研究してきた。
倉庫には、あの日路上で終わった襷が、洗われて畳まれてある。願いはひとつ。今年の七人が中継所で待つ仲間の手に、布が渡る音を、全区間ぶん聞くこと。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。