モエ(十八)は、この春から一人暮らしの大学一年生だ。家賃を払うと、新生活の道具に使える予算は一万円しか残らなかった。泣くか、笑うか。モエは笑う方を選んだ。「一万円で、城を建てる」。武器庫は駅前の百円ショップである。皿もハンガーも収納も百円。
だが本領はそこではない。突っ張り棒二本とワイヤーネットが本棚になり、すのこは組めば靴箱になり、保存袋は旅行の圧縮袋になる。売り場を歩きながら、モエは商品の「本来の使い方」の向こう側を読む。使った額は一円きざみで控えてあり、残りは今日も頭に入っている。
図面はチラシの裏、工具はドライバー一本。失敗もする。突っ張り棒は一度、夜中に本ごと落ちて、隣人に壁を叩かれた。それでも城は少しずつ立ち上がる。三十日後、田舎から母が「様子を見に」来る。心配性の母は、たぶん炊飯器や棚を買い足す気満々で来る。
モエの目標はひとつ。玄関を開けた母に、何も買い足すもののない部屋を見せて、こう言うのだ。「全部で一万円。座って、お茶でも」。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。