双子の姉妹、ソラとウミ。妹のウミは心臓が弱く、小学校の半分を病院で過ごした。姉のソラはその分、二人分生きてきた——運動会も、遠足も、文化祭も、「あとでウミに話す」ために全部を細かく覚える。夜の病室での実況は芸の域だ。「徒競走のスタートでね、隣の山田が靴飛ばした。
右斜め四十五度。先生の頭に乗った」。ウミは笑いすぎて看護師に怒られる。ソラの実況ノートは十二冊になった。そして今月、主治医が言った。「経過がいい。三十日後、外出許可を出せます。丸一日」。十三年間で、初めての丸一日だ。ソラは実況ノートを読み返して、リストを作り始める。
ウミに「初めて」をどれから渡すか——ぶらんこの立ち漕ぎ、自販機のおつりの音、雨のにおい。だがリストを作りながらソラは気づいてしまう。自分は妹の「初めて」を、十三年ぶん先回りして使ってしまっている。あの日の徒競走を、ウミは自分の足で走りたかったんじゃないのか。
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