新人グランドスタッフのスバル(二十三)は、初めての出発便の見送りで、隣のベテラン主任に小声で訊いてしまった。「これ、見えてませんよね。誰に振ってるんですか」。主任は真顔で答えた。「見えてる便が、たまにある」。半信半疑だった——毎週月曜の朝の便に会うまでは。
その便には、車椅子の女の子マドカ(九つ)が母親と乗る。隣の県の病院への、通院の便だ。マドカは搭乗の前、必ずスバルたちに敬礼をする。そして離陸のとき、窓に張りついて、こちらへ全力で手を振り返してくる。ガラスの向こうの小さな手が見えた朝から、スバルの手の振り方は変わった。
敬礼の意味を母親から聞いたのは、つい先週だ。「あの子、こう言うんです。『あの人たちが手を振ってくれる飛行機は、落ちない』って」。母親は続けた。「治療、あと少しなんです。三十日後が、最後の通院になります」。もうこの便には乗らなくなる——それは、いちばんめでたい卒業だ。
スバルは同期と相談を始めた。最後の月曜の朝、規則の範囲いっぱいで、空港ができる最大の「いってらっしゃい」をやる。届かないかもしれない。だが、あの子は昔から、ちゃんと見ている側の子なのだ。
主人公に直接は届きません。管理人が読み、手紙にまとめて届けることがあります。